コックピットのフレームを改良してみた話ー確実に設計変更を達成するために気を付けたことー

こんにちは!さいが(@sciencegirl58)です。

今回は鳥人間コンテスト滑空機部門用機体においてコックピットのフレームを改良した際に円滑に作業を進めるために意識したこと、周りとの知識共有の方法などを書きました。

2017年大会のコックピットフレームは従来フレームより”6m”飛距離に貢献する(ガバガバ計算)ということをウリにして活動していました。今回はこの事例について取り上げています。

新しい技術やシステムを取り入れたいけれども、どれくらい時間がかかってしまうのか、どれぐらい手間がかかってしまうのか分からなくて踏ん切りがつかない人のための先行事例として読んでいただければと思います。

さいが
さいが

コックピットの改良とアウトプットまでのプロセスをまとめました!

アイデアの着想

2016年大会出場機体のパイロット乗り込みの様子

アイデアの着想として、かねてからずっと「ココのスペース、いらないなぁ」という気づきがありました。また、コクピ班として「どうにかして前方投影面積を減らしたい」ということをずっと考えていました。”ココのスペース”というのは写真でのピンクで示したパイロットの機体乗り込み時の下半身のふくらはぎ側の範囲のことを指しています。

日々の作業の中での同期やOBの方との雑談の中で、いらないスペースをなくす案についてメリットとデメリットをたくさん議論しました。そして、さらなる飛距離に貢献するコックピットを目指して、コンセプトを「従来設計よりも飛距離に貢献するコックピット」として開発を行うこととしました。

ですが、大きな変更は製作不良や致命的なミスを包括している可能性もあると考え、従来設計を同時進行しつつ、新規設計のプロジェクトを進めていました。

コックピットフレーム改良の概要

新旧コックピット比較(右側面)
新旧コックピット比較(前面)

コックピットの形状を図に示すように改良を行いました。パイロットの頭や上半身が自由に動けるようにスペースを残したまま、コックピット後方の形状の改良を行いました。

コックピット改良のメリット

形状を変更したことによって想定されたメリットは以下の通りです。

  • 前方投影面積の削減(縦方向)
  • 重心位置とパイロットが近くなることによるピッチ操作性の向上
  • 顔の下に置かれていた電装部品をパイロットの背後に置くことが可能となり安全性の向上につながる
  • コックピットの縦方向が短くなることによって地面効果域でのフライト時間を長くすることができる

2017年出場機体ではパイロットの稼働スペースを確保したまま、従来設計より120mmコックピットの底が翼に近くなりました。この機体の滑空比(L/D)と削減できたコックピットの高さの120mmより単純計算で従来設計より6m飛距離に貢献するコックピットということになりました。地面効果域でのフライトでこのコックピットの縦方向の削減は生きてくるので、実際にはもっと飛距離に貢献していたのかもしれません(翼あってのフライトです翼班の方々いつもありがとうございます)

コックピット改良の想定されたデメリット

形状を変更したことによって発生することが想定されたデメリットは以下の通りです。

  • 形状変更によるコックピット製作の遅延
  • 形状変更による安全率等の強度の再検討の必要性
  • パイロットピッチ操作への影響の調査の必要性
  • 離陸時の機体高さへの影響

形状変更による作業遅延は大いに予想されたのでスケジュール管理を徹底しました。8~10月でコックピット形状の方向性を決定し、11月には溶接してくださっている方との相談や強度設計の諸計算を行い、12月に本番用フレームが手元にあるように計画しました。コックピット製作の遅れは特に電装班の作業に悪影響を与えてしまうことが大いに予想されたので、とにかくスムーズに作業が進むように関係各所と密に情報共有することを意識しました。スムーズに作業が進めるために、後輩たちだけでも作業ができるようにコックピット製作の流れを夏休み中からどんどん早期教育を行いました。(別記事で書きます。)

コックピットフレームのモックアップ製作

後輩に渡した従来形状のモックアップフレーム設計指示書
後輩に渡した新規形状のモックアップフレーム設計指示書

2016年大会が終了し、余韻に浸りつつ、8月頭より2017年大会機体のための実験をするためにコックピットフレームのモックアップの製作に取り組みました。

パイロットの身体測定を行い(パイロットは秋田に帰省していたので体を測って自己申告していただきました)フレームの寸法の設定を行いました。実際に乗り込んでみたり、持って走ってみたりすると体とフレームが干渉する可能性は大いにあることが分かっていました。そこでパイロットの体に合ったフレームを何回も検討・改良しながら作業ができるように、まずはじめに木材を用いてフレームを模擬したモックアップの製作から取り組みました。

画像にあるのは、コックピット班の後輩に渡した設計指示書です。口頭での指示では一人一人の後輩への情報共有にムラが発生してしまうため、設計指示書を用意しました。この設計指示書を見れば誰でもコックピット班の作業に取り組み貢献できる環境を意識して構築しました。画像ではプライバシー保護のため塗りつぶしていますが、後輩たちが困ったときにすぐに連絡できるように質問先の明示も行いました。また、設計ミス等で新規コックピットフレーム案を断念してもすぐに従来設計に戻れるように従来設計のモックアップも同時進行で行いました。

ちなみに、どうして後輩がメインで活動できるような体制をとっていたのか?と疑問に思う方もいると思いますが、理由としては私が空力設計とコックピット班活動を兼任していたこと、パイロットが忙しかったこと、私とパイロット以外にコックピット班に執行代がいなかったこと、執行代の共通認識として後輩教育に力をいれて戦力となるように強化することに力を入れていたことなどが関係しています。

新コックピットフレームでの乗り込み試験

2017大会出場パイロットによるモックアップフレーム乗り込み練習の様子

後輩たちが製作したコックピットフレームのモックアップを用いてパイロットに何万回も乗り込み練習をしてもらいました。この上の写真のようにビールケースを二つ重ねた上にモックアップのフレームを置いて、パイロットが永遠に一人で乗り込み練習ができるようにしていました。パイロットには「形状を変えたから乗り込みに影響がでるか調べたい。変えたい場所があったら適宜調整してほしい」と伝えました。とにかく時間があるときには乗り込み練習をしてほしい旨を伝えて新規形状に慣れてもらいました。

このフレームのモックアップを用いてプラットホーム上での離陸を想定した練習も行い、パイロットにフレームの感覚を覚えてもらうことに努めました。とにかく乗って乗って乗りまくってもらって、乗りまくってもらった後にはたくさんのディスカッションを行いパイロットだからこそ気づく些細な気づきを聞き出しました。

新規形状での乗り込み練習の様子
モックアップフレームを用いてどれぐらい上半身がはみ出るかを計測している様子
モックアップのフレームからどれぐらい足がはみ出たか計測する様子

新コックピットフレームの実装

新規フレームで乗り心地を確認するパイロットの様子

本番用フレームが完成した後はパイロットに本番用フレームに慣れてもらうプロセスを踏みました。パイロットが乗り込んだ状態でのピッチ操作やテストフライトを経てとにかくパイロットにコックピットの環境に慣れてもらいました。とくにピッチ操作の感覚を覚えてもらいました。

テストフライトでの新規フレームを用いた乗り込み練習の様子
パイロットにピッチ操作を覚えてもらうために側面からの映像をリアルタイムでスマホから見せている様子

コックピット改良して出てきたアレコレ

電装配置問題の解決と新たな知見の創出

従来はパイロットの顔の下に置いていた電装部品(バッテリーなど)をフレームを改良したことによってパイロットの背面に設置できるようになりました。このことによって前面からの湖面激突時にパイロットが顔にケガをする可能性を減らすことができました。が、パイロットの背面に配置した際の電装部品のメンテナンスのことを十分に考えていませんでした。電装のメンテナンスのことも考えたコックピット設計の必要性の認識をしました。設計するときはパイロットの操縦性も大事ですが、メンテナンス性を高めることによってよりフライトの成功しやすい機体になると思います。

ハッチ製作の断念
コックピットの曲面を維持したハッチの形状案の一部(幻)

2017年出場機体では機体へのハッチの搭載を断念しています。ここでのハッチは機体が離陸し、パイロットが乗り込んだ後に閉まるドアのようなもののことを指しています。ハッチもコンセプトまでは完成しモックアップの製作などには取り組みましたが、十分な製作期間が得られないこと、十分な信頼性を確保するための実験する時間を確保できる見込みがないことや、フレームの設計がもともとハッチを搭載することが考慮されていなかったことからハッチの機体への搭載を見送りました。あきらめた、というよりは”戦略的撤退”でした。高い信頼性をもって完成する見込みの無いハッチに時間をかけるよりも、大会当日の運営方法を検討したり、当日までにできる飛距離を伸ばすための作戦に尽力した方が良いだろうという考えのもと、戦略的撤退をしました。開発途中であったハッチのコンセプトやアイデアは後輩にすべて提供しました。翌年のハッチシステムは私の無念を晴らしてくれる素晴らしいものでした。

まとめ

このようなプロセスを経てコックピットフレームの改良を行いつつ、通常の製作が遅れないようにするために意識しながら活動していました。大会本番で機体は440m飛んでくれましたが、そのうちの6mはコックピット班の成果ということにしています()。有害抗力でしかなかったコックピットがリアルな数字のもと達成感を得られるような目標をもって活動できたことが全体を通してモチベーションにつながったとも考えています。以下今回の記事のまとめです。

  • 従来と設計を変える場合はメリットとデメリットを明確化し十分に検討する
  • 十分な製作期間と、関係各所への慣熟のための時間などの配慮をする
  • ときには戦略的撤退も必要である

改良したい、今までと違う形で製作したい、というときの参考にしていただければ幸いです。

あとがき

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